Q1991年の開院から診療のスタイルは変わりましたか?
A 現状、日本の歯科医療では、たくさんの歯科医院があり、患者様主体で歯科医院を選びますから、私たちは選ばれる側です。せっかく当院を選んで来てくださった患者様に対し、最大限の力で最善の治療を行うスタイルは開院当初から変わりません。当院には長く通っていらっしゃる患者様がとても多く、ただ悪いところだけを直すのではなく、定期的にメインテナンスに通うようお願いしています。そうすることで、お口の中全体を良い状態で維持できるため、結果的に通院回数も費用も負担が軽くなるんですね。
月に受診される患者様の3分の2が定期検診にみえています。
Q歯医者を目指したきっかけはなんですか?
A 3歳上の兄が医学の道に進み、現在は脳神経外科の医師として活躍しています。兄が医学部に進学したことに触発されたことに加えて、僕は小さな頃からとても手先が器用だったので、その資質を生かそうと歯学部へ進みました。勤務医時代はセラミッククラウンも自分で焼いて作っていました。高校まではそんなに勉強は好きじゃなかったけど(笑)。歯学部に入って本当に毎日が楽しかったし、一生懸命勉強しました。医学の世界は、常に技術や材料が進化するので、自分の技術は常に上げていかないといけません。そのため、今でも海外、国内問わず学会やハンズオンコースを受けるようにしてます。
Q診療のモットーはありますか?
A 僕がいつも患者様に言うのは「治療の最終的な決定権は患者様にあって、われわれが決めることではない」ということです。患者様が意思決定できるように、われわれが正確にわかりやすく説明し、サポートすることが必要だと思います。どんな治療にも利点と欠点があるので、患者様が理解できる説明、適切な診断というのは大事です。僕がすべての治療をするのではなく、例えば、僕よりもスペシャリストだと思える先生に紹介することもあります。歯科医師が、自分の得意とする治療を勧めるのではなく、患者様の利益やより良い結果のためにどうするのかを考えた治療を行うようにしています。
Q先生が自由診療でこだわることはなんですか?
A
私は大学を卒業後、銀座の自由診療のみのクリニックで、7年間努めました。そこでは、アメリカの大学で准教授まで務められた先生に師事しました。自由診療を保険診療とは違い、より患者様に合った治療を選択できる反面、気になるのはやはり金額です。当院では少しでも費用を抑えられるよう検討しますが、マイクロスコープを使用したり、セラミックやジルコニアなどの金属アレルギーを起こさない材料を使用するとどうしても保険診療よりも高くなり、不安になると思います。
しかし、良い治療や素材はそれだけ長持ちすることにつながります。自由診療を行なった後は、定期的な歯科検診を受けていただいて、一生ものの治療にできるようサポートすることが当院の務めだと考えています。
Q後進の育成についてはどうされていますか?
A 僕自身、先ほどお話した恩師のところで長年修行し、開業医の先生方を指導するお手伝いなどもしてきました。当院では、まずマネキンの模型の歯を削ったり、根の治療の練習をし、担当する患者様の診療計画などについても診療後にディスカッションするなど、育成に力をいれ、日本の歯科のレベルを上げるということが大事ではないかと思っています。開業当時から若い先生と一緒に仕事をしていますが、ここを出て独立した先生は、おかげさまでみんな順調のようです。
Qマイクロスコープはどんな時に必要なのですか?
A 当院ではマイクロスコープを、20年以上前から導入しています。アメリカでの学会で、カリフォルニアに開業している先生の顕微鏡治療に関する講演を聴いたときの驚きは今でも忘れられません。マイクロスコープを使って治療している姿を見て、「こんな世界があるのか」と感動しました。一般的な治療とはあまりにもレベルが違い「よし、自分も日本でやろう」と思ったものの、当時の日本は大学病院でも設備があるかないか、という時代でした。今では、治療の中でスタンダードな機材という感覚です。当院では、歯科衛生士も拡大鏡を用いて患者様のお口のメインテナンスを行っています。僕は10倍の拡大鏡とマイクロスコープを使い分け、常に拡大鏡下で治療しています。マイクロスコープを使うことで、見えるものの精度や治療のクオリティが格段に上がったと思います。
Q最近、新たに導入された機器はありますか?
A 若手の先生用に、もう一台マイクロスコープ、ワイヤレスの3Dスキャナーを導入しました。歯科の治療では、歯型を採ったりすることがありますよね。従来は、シリコンの材料を口の中に入れて型を採っていましたが、患者様によっては嘔吐反射が出たりと負担がありました。3Dスキャナーは型取りの負担をかなり軽減でき型採りが苦手な患者様からも好評です。今は口の中の状態を読み込んで、そのデータを技工所に送り、セラミックの詰め物や被せ物を作成するといった流れです。単純に目新しいものを導入するということではなく、精度の高い治療をするための医療設備を導入しています。
QCTはどんな時に使用するのですか?
A 歯科用CTはインプラント治療を行う上で不可欠です。CTデータを基にインプラントのシミュレーションソフトにて埋入位置を決め、そのデータでサージカルガイドを作製します。手術の際はそのガイドを使用してシミュレーションと同じ位置に埋入することができ血管や神経を傷つけることなく安全に十分配慮して行えます。術中はマイクロスコープで見落としがちな細い副根管を考慮しながら進めるため、治療の予後が違ってきます。
Q地域の皆様へメッセージをお願いいたします
A 当院に通い始めた頃は小学生の低学年だった子や、お母さんの治療中におなかの上にいた赤ちゃんがもう20歳を過ぎたり、結婚もしたり、あるいは自分の子どもを連れて来たりすると、自分も年を取ったなと思うのですが(笑)、常にそこまで長く来てくださるというのは本当にうれしいですね。これから先、どれくらいの患者様を診られるかわかりませんが、これまで自分が診て治療をして携わった患者様に関しては、末長くメインテナンスをして、責任を持って口の中の状態を維持していく役割を担いたいと思います。